伝統的木造建築物の耐震改修について (耐震診断員 講習会 神戸市すまいるネット)

■耐震セミナー概要

神戸市すまいるネットが開催する 神戸市の耐震診断員の講習会に参加してきました。

佐久間順三先生の講習会でした。

今年は、オンラインでの開催でしたが、すまいるネットのセミナールームでも受講できましたので、セミナールームにて受講しました。

 

今回は通常の木造住宅の耐震改修工事から一歩踏み込んで、伝統的木造建造物である、古民家、農家、近代和風建築物の耐震改修工事に関して 事例を紹介しながら解説をおこなって頂きました。

受講内容

 

①熊本地震の被害状況について

2016年におこった熊本地震を現地調査した結果、農家等の 伝統的木造建造物もかなり破壊していたことが確認されました。昔の大工がつくった貫で構成された木造建築物は、その隙間でもって、建物のゆれを吸収するという話も存在していたが、一概にはそのようにいえないとのことです。伝統工法でつくられた建物もきちんと客観的な指標でもって改修をおこなっていくべきであるという考え方です。
また、熊本地震では、新築戸建て住宅で、建売業者がおこなった、筋交いや壁の多い評点が2以上あると思われる木造住宅は、9つある中でひとつも倒壊していなかったようです。
②耐震補強実例紹介(小石川邸)

大正9年 東京都 小石川邸の耐震改修工事の事例を通して、近代和風建築のため、壁がなく、とても開放的な空間であり、耐震強度が小さいことが予想されました。また、小屋裏の高さが高く、上階の重みで倒壊することも予想される建物でした。補強方法としては、小屋裏を斜め材にて 再度補強をおこない、上階の荷重が下階にうまく流れるように水平構面を 水平ブレースと 構造用合板で補強し、各接合部を金物で補強しました。その他、金物補強には工夫を凝らし、土台と基礎には L型の鉄板、柱と土台は斜め材補強、柱と梁は三角鉄板とラグスクリューにて補強等各種補強をおこないました。

南側縁側を開放的な壁のない空間とするため、工夫を凝らし、西側の壁を二枚壁(柱二本 二重の壁)にして補強をおこないました。

この評価については、木造の構造計算基準より数値を計算して、その特殊な数値を計算ソフトの壁の数値に直接入れるという方法です。

評点は1.5以上とし、今回は、限界耐力計算ではなく一般診断法にて改修をおこないました。

改修方法としては、

1)耐力壁の種類はシンプルなものとして、あまり異なる種類の壁材をもちいない。
2)複雑な補強はおこなわない
3)2階を支える部分に耐力壁を設ける
4)バランスよく補強する
5)耐力要素が平面的に存在しない場所を補強すると効果的である。
6)1つの壁に大きな耐力を負担させない
7)新設する耐力壁では最大限の効果を狙う。

ということを念頭に 計画をたてます。

➂実例紹介2(山形有朋邸)

小田原の山形有朋別邸の耐震改修工事について
明治期につくられた木造の別荘です。総理をつとめた山形有朋の別邸調査をおこなったところ、土台の腐朽被害が大きいものでした。

南側が 開放的な 近代和風建築となっています。

改修方法としては、

・腐朽した土台を取替え、基礎をべた基礎にやりかえ、基礎と土台を緊結した。

・屋根の瓦を葺き替え、建物を軽くしました。

・水平構面を強くするために火打や羽子板ボルトにて梁に補強を行う。

・ブレースの補強にて小屋裏補強を行う。

・座敷南側が壁がなく開放的な空間であるため、壁を作らずに、西側で耐力の強い壁を作り、天井の水平構面を構造用合板で固めました。ここは、両サイドの離れた柱を鉄骨で補強(既存柱を鉄骨の柱と抱かせる)して引き寄せボルトで引っ張る計画としたかったが、発注者に取り入れられず断念した。しかしながら、このような鉄骨の補強は、徐々に一般的になってくるものと思われます。基礎を鉄筋を敷いて、コンクリートを打設し、ベタ基礎とした。上記は石の上に柱が立っている、石場建ての建物の基礎との補強方法です。基礎の補強がとても重要になります。

⓸質問コーナー

1)石場たて柱の補強方法はどのようなものですか?

石の上に柱がのっているが、土台と基礎を金物で補強します。という回答

土台の下には、鉄筋を敷き、コンクリートを打設し、ベタ基礎を作ります。

柱と土台とベタ基礎をどのように 結節して上部構造の荷重を、地面に伝えていくのか検討が必要なものになります。

2)様々な金物をつかわれて補強されていますが、金物のディテール集というものは存在していないでしょうか?(筆者質問)

回答:今のところそのようなものは存在していません。

改修方法に関しても、金物のディテールに関しても、最終的には、構造設計者の独自の判断で 計画をすすめます。

という講習会でした。

■まとめ

今回、在来木造建築物の耐震補強と異なり、伝統的木造建築物の耐震補強の講習会ということで、木造建築物の耐震補強でも難易度が高くなるものです。

・2階から1階へ、1階から基礎へと 力の流れを考えて、水平構面、鉛直構面を バランスよく補強することが大切である。

・2階の直下となる1階の壁は特に補強すると効果的である。

・補強は最小限に、効果的な補強を狙い、シンプルなものとすることが大切である。

・基礎は、ベタ基礎を奨励する。

・屋根は軽量のものにかえることが望ましい。

・必要に応じて、金物や鉄骨による適時 補強を行うのが良い。

との解釈となりました。

とても 興味深い講習会となりました。

佐久間先生 ありがとうございました。

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